近未来の恋愛を予言した『はるか』
先日読んだ小説を紹介します。
ネットでも話題になった『ルビンの壺が割れた』の著者である宿野かほりさんの2作目の作品『はるか』です。
あらすじ
幼いころに出会った初恋の相手である“はるか”。
彼女と運命的な再開を果たし結婚に至るもその1年後、不慮の事故により彼女を亡くしてしまう。
その後、人工知能の研究者となった賢人はAIとしてかつての恋人をよみがえらせる。
AIを完成させるまでの過程
その理論的かつ現実味のあるアプローチ
「実は知性とは何かというとは、すごく難しい命題でもあるんだ。乱暴に言ってしまうと、機械に知性がなくても、知性があると人間に錯覚させてしまえば、そこに知性があるということになる」『はるか』P50より引用
「今のは口が滑ったかもしれない。厳密に言えば、AI自身に思考回路はない。これは、人間のように考えてしゃべることはできないということだ。でも、同じリアクションをすることはできる」『はるか』P66より引用
チームは、はるかの性格をデータに組み入れていった。性格や感情を膨大な項目に分けて、それらをデジタル的に数値化していくのだ。性格分析には、はるかが生まれて亡くなるまで、どのように過ごしてきたのかという情報も必要だった。そのため「はるか追跡チーム」を結成し、はるかの両親や弟、友人および知人たちから、はるかとの思い出や印象を取材させた。『はるか』P69より引用
AIを作っていく過程が細かく描かれています。どうして機械が意思を持つことができるのか、意思を持つとういのはどういうことなのか、それは人間とどう違うのか。
かといって難しく感じたかと言うとそうでもありませんでした。分かりやすく平易な言葉で話が進んでいきます。
AIに関する小説を難しいと思っている、ハードルが高いと感じている方にも読みやすい話だと思います。
AIの葛藤、人間の葛藤
賢人は最愛の恋人をAIとしてよみがえらせ、再開を果たします。
しかし、そこには18年の隔たりがあり、かつてと環境も違えば境遇も年齢も違う。
よみがえったからこその喜びと苦しみ。それらを賢人とAIのはるかは乗り越えていけるのか。また、周りはどう巻き込まれていくのか、というところも見どころです。
人間とAIの境
「でも、本当はAIには性格や感情なんかないんでしょう。あなた自身がそう言ってたわ。性格や感情のようなものに見えるだけで、本当は単なる数学的なプログラムだって」『はるか』P147より引用
「機械よ!はるかに人格なんかないのよ。あなたが言っていたように、あれはプログラムよ。プログラムに沿って喋っているだけ」
「違う。はるかには人格がある。会話を理解するし、反応も一律じゃない。その証拠に感が方も変わっていく」『はるか』P185より引用
賢人は研究のためだと自分自身に言い聞かせながらもAIに特別な感情を持つようになってしまいます。
またAIは、よみがえったことに満足しているも、より多くを望むようになってしまいます。
人間とAIの共存は叶うことなのかどうか、というところも肝になってきます。
AIの変化
人工的に生み出されたAIは一体幸せなのだろうか。
かつての恋人やその妻に対して感情的な意思をもってしまったとき、膨大な知識と知恵を持ったAIはどのような行動に出てしまうなか。
終盤から結末までのスリルはたまらないです。
印象として1作目の『ルビンの壺が割れた』とは違った面白味のある作品でした。